宇都宮線ア・ラ・カルト


宇都宮線および宇都宮線沿線に関する気になるあれこれを、テーマを決めてアラカルト風に特集記事として一つのページにまとめました。
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Vol.0 「ecute大宮〜ディスティネーションとしての駅へ〜」

―――JRだけで一日に46万人の乗降客を擁し、首都圏における鉄道の重要な結節点となっている大宮駅に2005年3月、ecute大宮という名の新しいコンセプトの商業施設がオープンしました。ecute大宮のテーマは「エキナカ」。新しく開業した商業施設は全て駅の改札内に展開しています。現在のところ、一日の利用客は約3万人、JR以外で大宮駅に来た人もecute大宮を利用しようと入場券の売り上げが伸びるほど。今回は、そんなecute大宮を特集のテーマとして選びました。

1.ecute大宮オープンまで

90年代に入り、少子化の進行とバブル崩壊により、それまで大都市圏では総体において右肩上がりを続けてきた鉄道輸送量は減少傾向に転じ、鉄道事業者はその存立基盤を揺るがされる事態となりました。首都圏におけるJR東日本(旧国鉄含む)で言えば、1980年から1990年は年間鉄道輸送量が40億人から50億人に増えるなど非常な増加が続きましたが、以降その伸びは鈍化、1995年頃を境に微減傾向となっています。特に収入占有率で3割を占める定期券利用客の減少は深刻で、定期外利用客の増加をはかって下支えしている状況が続き、JR東日本の運輸収入は1999年頃から横ばい状態となっています。そこで鉄道事業に加え、生活サービス事業という新たな収入源を確保する必要性が出てきました。そこからJR東日本が進める駅の復興計画(ステーションルネッサンス)「コスモスプラン」は誕生しました。コスモスプランは「駅空間という経営資産の可能性を100%引き出すこと」を目指すと定義されています。(*1)最初は、駅構内の業務用スペースの見直しから始められました。それまでの駅内には必ずしも必要性が高くない施設が駅構内の便利な場所に位置したりしている場合があり、これを整理することで、そこに商業施設を展開しようというものでした。そして、それが成功を収めると、今度は「商業施設を展開させるために駅を拡張する」という段階に入りました。その最初の大規模な具現化が大宮駅のecute大宮なのです。

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2.プレスリリースからみた沿革

このプレスリリースで大宮駅の改造計画が初めて公式にアナウンスされることとなりました。概要として発表されている内容は改札の南側に人工地盤を設置することや、コンコースやトイレの増築だけでなく、2つの乗り換えコンコースをそれぞれアベニューとウォークとするなど、かなり細かい部分まで詰めてから発表していることが見て取れます。ただし、まだecute大宮という名称は決まっていません。

大宮駅および同様の計画が発表されている立川駅の開発を担当する企業として、株式会社JR東日本ステーションリテイリングが設立されることが発表されます。この時点で、大宮駅新商業施設の想定年間売上高は40億円とされています。また、女性客をターゲットにした施設であることもある程度窺うことができます。その後の新聞報道で明らかになりますが、大宮駅開発計画では、外部の女性ビジネスパーソンが招かれています。

「エキナカ」空間の愛称の公募されることが発表されました。施設概要は前回の発表を踏襲しています。

Suicaによる少額決済サービスが発表されました。ecute大宮では全店舗でSuicaによる決済が可能となっています。

「エキナカ」空間の愛称がecuteに決定したことが発表されました。これはE(eki)、C(center)、U(universal)、T(together)、E(enjoy)という5つの単語の頭文字をとった造語であると同時に、音感から「楽しいことがキューっと詰まっている駅」を表しています。

ecute大宮の概要について、フロアイメージなどの詳細が発表されました。もっとも開業を3ヶ月後に控えているため、この時点では既に各店舗の工事なども始まっているはずですので、やや遅めの発表とも言えます。このプレスリリースではコンセプトやビジネスモデルなど、理念的な部分についても明らかにされています。なお、この時点で想定年間売上高は55億円へと上方修正されています。

この発表で、開業日およびテナントとなる店舗が発表されました。食品を扱う店舗が多く、デパ地下風になることがわかります。とりわけスイーツ系のショップがかなりの割合を占めるほか、その他の店舗も女性指向となっています。これが、開業前の最終プレスリリースとなっています。

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3.クローズアップecute大宮

ecute大宮の各部を写真を交えて紹介します。公式サイトフロアマップをご参照になりながらご覧下さい。

エントランス付近
ecute大宮その1

中央自由通路からecute大宮を見たところ。ここはJR大宮駅南口であると同時に、ecute大宮のエントランスをも兼ねている。手前にはもちろん改札機があり、JRの切符を持たない人は入場券を買わないと入ることができないのが一般の商業施設と大きく違うところ。また、ecuteと書かれた看板の下には各路線の発車時刻案内が並ぶ。床から壁、天井に至るまで全て白系統の清潔感あふれる色に完全リニューアルされた。照明も効果的に作用し、新しい時代の駅の印象。写真中央部はコモレビ広場と名付けられ、各種イベントが開催できるようなオープンスペースとなっている。右奥に小さく見えるオレンジの屋根はKIOSK。レジカウンターの上の棚にも商品(黄色っぽく見える部分)が並べられている。これは陳列商品数アップのため従来のKIOSKでもとられていた方法だが、棚を木製とし電球色でスポット照明することにより、見た目の雰囲気を大幅に向上させている。

「ウォーク」4番線への階段付近
ecute大宮その2

内部は暖色系の照明になっている(時間によって変化するが、これは16時頃撮影)。駅の機能も兼ねるため、改札方面へ伸びる通路幅通常のデパートや大型スーパーのテナント部分の通路よりはかなり広めに取られている。ただし、東西方向に新に設置された乗り換えコンコース「ウォーク」は若干狭いとの声もある。この付近は今回新に設置された人工地盤の上に当たり、当初からテナントスペースを想定して作られたため、普通の駅ビルにかなり近い印象がある。一方、写真左側にあるようにテナントのすぐ脇にも発車時刻案内のLEDが設置されており、不思議なイメージ。

案内看板部分を拡大
ecute大宮その3

上の案内看板を拡大したところ。ここでは乗り換えはラインカラー、出口は黄色というJR東日本標準のサインがそのまま使われている。また、新幹線やエレベーターなどはピクトグラムで表示されるのも標準仕様。もともと、この標準サインはフォントの選定などで意匠性が考慮されているが、枠や吊り棒などの色、大きさなどのデザインを吟味することによって、さらにショップ内での違和感の軽減を図るように考慮されている。同社線内での相互乗り入れによる列車系統の複雑化により、やや詰め込みすぎな印象もある。特に英語表示はかなり小さな文字になってしまっており、実用性という点ではややマイナスか。ただし、明るめの照明に照らされているため、看板自体が風景に埋没してしまって案内機能を阻害するようなことはなく、一目で見つけることができる。ここには一般商業施設で見失いがちな化粧室の方向案内も一緒にピクトグラムで表示されているため、すぐに発見できる。

「ウォーク」のホームへのアプローチ部分
ecute大宮その4

近年、JRの駅リニューアルでとられている手法、ゲート式案内がここでも採用されている。チャコールグレーの色遣いは他の駅と全く一緒だが、一般商業施設風のクリーム色の壁にも違和感なくとけ込んでいる。ゲートの柱に当たる部分では大きな番線表示で視認性は抜群。また一体化したラインカラーの案内看板により、遠くからでも自分の目的とするホームを見つけることができる。このコンコース「ウォーク」は新規に拡張された部分であるため、エスカレーターとエレベーターがセットとなって設置されている。エスカレーターの天井部分は、ecute大宮の風景の一部となるので、従来の駅とは一線を画すデザイン性に富んだものとなっている。しかし、降りた先のホームは依然として従来の黒っぽいアスファルト敷きのままであり、人工地盤ができて日が差し込まなくなった分、暗ったい印象になったので、その落差には愕然とする。

エキュートフードシアター
ecute大宮その5

11番線ホームのさらに新幹線寄りに位置するエキュートフードシアター。この付近は、買い物客で特に混雑しており、レジには列ができるほどである。ここがもっともecute大宮らしい場所といえるかもしれない。このコーナーでは下にホームがないのでコンコース機能は不要となっており、フロア全体が商業施設のために供されている。そのため、上記の駅施設に関連する発車時刻案内や案内看板などはなく、まさしくデパ地下同様の作りになっている。ただし、手前に見える点字ブロックだけは例外である。一般商業施設においてはデザイン性を追求するあまり、点字ブロックまで床と同色にしてしまって本来の視覚障害者への案内機能を果たさなくなっている例は枚挙にいとまがないが、ここではきちんと黄色の点字ブロックが使われており、公共交通機関の施設の一部であるという責任感が伝わってくる。また、このことはecuteの語源でもあるuniversalの概念とも通じるものである。

「アベニュー」からグッズショップ方向
ecute大宮その6

改札から直進してアベニューに突き当たったところからウォーク方向を見たところ。この通路はグッズショップとカフェ&イートインのコーナーの境目に当たる。こちらはグッズショップ方面。ecute大宮にはカジュアル服の専門店が多い。以前から上野駅などで、「エキナカ」のアパレルショップは存在していたが、あくまで個別の店舗として画然と壁で区切られていた。ecute大宮では、店舗の開放性が非常に高く、通路から直接商品棚へとアクセスできるようになっており、一般商業施設のテナント部分との類似性が非常に高い。7番線の表示が見えるところがウォークにあたり、7番線および6番線の発車時刻案内機も見える。

「アベニュー」からカフェ&イートイン方面
ecute大宮その7

上の写真の向かい側に当たる。こちらはイートインの食べ物屋が集結している。それまでの駅そばの様な印象は全くなく、都心再開発ビルのレストランスペースに近い内容となっている。食品を扱うだけに、通路とはパーティションで区切られているが、総ガラス張りのシースルー式となっており、視覚的な開放性は維持されている。また、この部分には3店舗が入居しており、1店舗あたりの面積は必ずしも大きくないが、連続性のある構造とすることで、狭さは感じない。この裏側の通路では通路幅を絞り、いわゆるゴミゴミ感を出し、心和む空間が演出されている。通路にイスと小さなテーブルが並び、オープンテラスの感覚でベジタブルジュースなどを楽しめるようになっている。ここまでくると、カレッタ汐留のように曲線のラインを活かしたデザインでもよかったのではないかと思えてくるが、駅施設を兼ねていることを考えると、このような整然とした碁盤の目状の配列も仕方ないところか。

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4.ecute大宮のもたらす効用

ecute大宮は、開業以来、連日多くの買い物客でにぎわっています。もともと大宮駅は全ての通過各線の終着駅または分岐駅となるなど、関東北部の鉄道の要となっているだけでなく、東京駅や上野駅を利用しづらい東京西部の人々が新幹線への乗り換えのために集まってくるため非常に需要の多い駅であり、その駅の持つ乗降客、乗り換え客を集める力をそのまま買い物客を集める力として振り向けることができるからです。そのため、テナントとして出店できる店は当初から高い目標が課せられ、売り上げが少ないと撤退を強いられる状況となっています。集客力の高い店舗を集め、空間あたりの収益を高めようというねらいです。この仕組みの下で、JR側は大きなテナント料を得ることができます。また、「ほんのり屋」という自前ブランドの店を出店させることで、そこからも直接利益を上げることが可能となっています。そういう点から、JR東日本は鉄道以外の生活サービス部門という収益源を持ち始めたと言えるでしょう。しかし、ecute大宮の効用はこれだけにとどまらないと考えられます。「エキナカ」の空間創出方法が駅の空きスペースを商業施設として活用する段階から、商業施設を展開させるために駅を拡張する段階へと進化したように、その利用のされ方も、「乗り換えついでにちょっと買い物をしていこう」というものに加えて、「ecuteで買い物するために駅に行こう」という当初の狙いとは逆の発想に基づく利用方法も想定されるからです。現に大宮駅の入場券の売り上げがecuteオープン後に伸びたという新聞報道もありました。近隣の駅から大宮駅までの乗車券の売り上げも今後、着実に伸びていくと予想されます。これは従来の鉄道の売り上げに、生活サービス部門の売り上げが加わるということに加えて、駅が目的地(ディスティネーション)となり、鉄道輸送の需要そのものを作り出すというシナジー効果と言えます。ところで、駅を目的地化させるには2つの条件があるように思います。1つ目はベッドタウンからそれほど遠くない駅にあることです。都心回帰が進んだとはいえ、まだまだ人口はドーナツ状に分布しており、郊外に住む買い物客にとっては東京はやや遠いところにあります。しかし、大宮駅はそのドーナツの輪の内円のやや外側と言える場所に立地しているので、気軽に利用することができます。宇都宮線の例で言えば埼玉県内からだと遠くても30分で到達することができ、非常に身近な場所にあるといえます。例えば六本木ヒルズのような超大規模プロジェクトなら遠くからも人を集めることができるでしょうが、駅構内の施設となると、いくら大きいとはいっても自ずから規模が制約されてくるため、ecuteのような「エキナカ」商業施設が本源的需要地となるためには、ある程度人の住む場所に近いところに立地している必要があるのではないでしょうか。2つ目の条件は、サプライズを喚起するだけの魅力ある施設です。ecute大宮はネット上で、予想を裏切る出来映えと評価されています。エキュートフードシアターなどは、全く駅構内ということを感じさせない作りで、デパ地下よりも洗練されている部分もあります。それがecute大宮利用客の顧客感動を惹き起こし、乗り換えついでに立ち寄った客が、土休日に改めて買い物のためにやって来たり、それを口コミやネットなどで知った客が見物に訪れるなどといった効果をもたらすのです。ecute大宮は以上2つの条件を満たしています。今後、立川でも同様の開発の完成が予定されていますが、立地条件は大宮と似ているものの、立川の場合は沿線の商業施設が大宮よりかなり充実しているので、この相乗効果がどの程度普遍性があるのかという点に注目したいと思います。

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編集後記

宇都宮線ア・ラ・カルトVol.0「ecute大宮〜ディスティネーションとしての駅へ〜」はいかがだったでしょうか。私自身、初めてecute大宮を訪れたときは、それまでの工事中の暗いイメージがあったので、かなり衝撃を受けました。平日は埼玉北部と都内を往復する身なので、大宮駅を利用することはあまりないのですが、それでも大宮に用があるときには、南側のコンコースに上がるようにしています。ところで、ecute大宮では関西発祥のショップが目に付きます。中でも、いなり専門店「豆狸」のいなり寿司は、ecute大宮オープン直前に中京・関西方面の旅行に出かけた際、名古屋の高島屋の地下街で買ってなかなかおいしいと思っていたので、「豆狸」が大宮に出店したと知ったときは早速買いに出かけました。ここの「わさびいなり」はさっぱりしており、この季節にはお薦めです。ただし、これだけでは辛すぎるので、「金ごまいなり」と1:3くらいの割合で買うのがよいかと思います。イートインでは「カレーショップ トップス」をたまに利用します。バターの風味が効いたルーが特徴的です。

ecute大宮のもたらすシナジー効果については、Suica関連のものでもう一つ述べたいことがあったのですが、今回のテーマからは外れるので、上野駅の特集の時にでも取り上げようと思っています。さて、本来はここで次回予告をするのですが、今回はVol.0をようやく公開にこぎ着けたという段階で、まだ何も決まっていません。構想中のテーマはいくつかあるので、詳しくは編集メモをご覧下さい。

参考サイト

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